――『狼と香辛料』10周年! そして11周年目に突入ということですが、第一巻発売からいままでを振り返ってのコメントをお願いします。


持ち込みのファイルを見てくれた当時の担当さんにお電話を頂いてから約11年……もうそんなに経つのか、という気持ちです。

こうして今現在俯瞰的に思い返してみると本当にあっという間だったなーという感覚なのですが、実際には多分きっと色々ありました。ありましたとも。

コミカライズやアニメ化……自分のデザインしたキャラクターを他の人に描いてもらい、そして動かしてもらえるというとても嬉しく、貴重な機会も頂けました。

色々なイベントや台湾にサイン会でお呼ばれしたなんてこともありました。

良い事も悪い事も、普通に生活してたらまず経験できなかったであろうことを本当にたくさん経験させて頂きました。

こう考えてみると、自分のイラストレーターとしての人生の大半はこの『狼と香辛料』という作品とともにあったのだと改めて感じます。

そして10年の節目でこうしてまたこの作品に携われている事を本当に嬉しく思います。

これからもまだまだホロとロレンス、そしてミューリやコルの旅を見続けていきたいですね。



――文倉さんにとってこの10年は想い出深いものかと思います。『狼と香辛料』のイラストを担当していて、印象に残っているエピソードを教えてください。


古い頃の思い出として深く印象に残っているのは一巻が出た当初、やはりとても気になってネットで挿絵の感想を見て回った時期がありまして……。

自分はメンタル的にそこまで打たれ強い方ではなかったので、もちろん褒めて頂いているものもあったのですが、叩かれて悪く書かれているものも少なからずあってデビュー前に(今思うとほんとに)なぜか持っていた根拠のない自信はあっさりと崩れ去り色々と思い悩んでしまったりもしていました。

そんな中、2巻の発売前に支倉先生と編集部でお会いする機会があったのですがその帰り道「文倉さんのイラストで良かったと思います」と、もちろん気を使っての事ではあったと思いますが、そのような風に言って頂いて凄く気持ちが楽になった事を今でもよく覚えています。

今思うと我ながらとてもちょろくてビビりますが、支倉さんにお会いした時の他の感想はほとんどさっぱり覚えてないのにその瞬間の事だけはしっかり覚えている辺り本当に当時の自分はその一言で救われたんだなーなどと今更ですが改めて感謝する次第です。



――『狼と香辛料』のキャラクターデザインにまつわる誕生秘話などあれば教えてください。


服装のデザインは最初本当に悩みました。いわゆるRPGゲームのようなものではない、中世的なデザインで尚且つライトノベルのキャラクターとして成立するものってどういう感じなのだろうかと。またホロに関してはロレンスの一張羅を着るという事もあって、なんかもうこのスカート代わりの腰巻はロレンスだと本当はこういう風にってうわああみたいになりながら、今から考えるとかなり時間をかけて考えていた記憶があります。

まあ、その苦労した一張羅は1巻の最後で無残に散り、ロレンスと一緒に自分も嘆く事になったわけですが……。

唯一麦を入れた巾着袋だけはずっと残り続け、耳・尻尾と合わせてホロを表現する重要なアイテムになったのは嬉しい限りです。

そして今では世代を超えて娘ミューリに受け継がれ、自分の中ではシリーズ通しての一つの象徴みたいなものになっているので、当時の自分も少しは報われたのではないか、と思います。



――『狼と香辛料』の原作を担当する支倉さんとは、普段どんな話しをしていますか?


たまにお会いするともっぱら健康に関してなどの話題になりますね……。

『狼と香辛料』に関してはほとんど話すことはないですね。最近は『狼と羊皮紙』について少し聞いたりはしてましたが。

あと支倉さんは今でも常に色々新しい事に挑戦をされてて、そんな話を聞くと自分も見習いたいなーといつも思います。

まだ全然行動に移せてない辺りお察しなのですが。



――文倉さんが思う『狼と香辛料』の良いところを10個教えてください。


・登場人物がみんな魅力的。

・毎巻読みごたえがある。

・ホロとロレンスがいつまでたってもイチャイチャ幸せそう。

・ミューリみたいな娘が欲しい。

・温泉で蕩けるくらいのんびりしたい……いつの間にか願望になってた。

・引きこもりでも食い倒れ旅気分を味わえる。

・引きこもりでも気の置けないパートナーを得た錯覚ができる。

・引きこもりでも経済の仕組みがちょっとわかった気分になれる。

・引きこもりでも……おえぇ(嗚咽)

・現実にはない眩しすぎる幸せがそこにはある……



――さてホロとロレンスも長い旅を終え、湯屋・狼と香辛料亭の主人と女将となりました。このサイトでも連載している二人の湯屋での物語『Spring Log』編ですが、月日が経って二人の描き方など変化はありましたか。


ホロは見た目が変わらない分、髪型や表情などで時間としての経過を少しでも出せればなーと思いつつ、ロレンスは本来ならもっと歳を感じさせるくらいでもいいかと思ったのですが、ホロに合わせて多少のくたびれ感を出す程度のイメージで描いています。

あと大きな変化としては、文庫の表紙イラストにロレンスも登場するようになったことでしょうか。

より、“二人で一つの”という結びつきが深くなった感じを意識するようになりました。



――今後、文倉さんが読んでみたいエピソードや描きたいシチュエーションなどがあれば教えてください!


個人的には、もっとホロ・ロレンス・ミューリの家族一緒のエピソードが読んでみたいですし、もちろん描いてもみたいです。

あとは、かつてホロとロレンスが旅の中で出会った人々のその後が知りたいですね。(これに関しては羊皮紙の方に期待しています)



――こちらもぜひお聞きしたいのですが、文倉さんがいままで描いてきた『狼と香辛料』のイラストの中で、一番のお気に入りイラストはどれでしょうか?


色々とあるのですが最近のもので、この間GoFaさんで「狼と香辛料&支倉凍砂 10周年記念展 ~Spice and wolf atgraphy~」を開いて頂いた際に描き下ろした2枚のイラストはとても気に入っています。

ホロとロレンスの旅の始まりと旅の終わりを自分自身も色々とじっくり思い返しながら描いたので、少しは見て頂いた方にもそれが伝わるものになったのではないかと珍しく自信を持って思えるイラストになりました。



――ホロとロレンスの娘・ミューリの物語『新説 狼と香辛料 狼と羊皮紙』。コルとミューリのキャラクターデザインの誕生のお話を教えてください。


ミューリは最初にほとんどホロと一緒と聞いていたので、基本はホロをベースに、そこにより子供っぽく元気なイメージを足す感じでデザインしました。

髪の毛の先端がホロと比べて若干外はねっぽくなってるのもその影響です。

カラーリングに関しては、ホロと同じという案もあったのですが、個人的な希望でロレンスの要素をなんとか入れたいと考え今の色に落ち着きました。

狼のイメージとしても銀・灰色というのは強くありましたので、うまくまとまってくれたのではないかと思います。

支倉先生にも可愛いと言っていただけたので個人的には大成功でした。

コルに関してはミューリのカラーリングの影響で、子供の頃より少し金髪よりにカラーを変更しています。

修道士風のコートの下はロレンスがかつて着ていた服装によく似たデザインになっているのですが、これはお下がりをもらったとかではなく、コルの中で旅に出るならこういう服装という子供の頃のイメージが強く残っていたから自然とそんな感じに……

という勝手な想像を巡らしながら考えたりしていました。あとロレンスよりは素直にイケメン風に描いている気がします。



――最後に『狼と香辛料』ファンに向けて今後の抱負などあればひとこと!


これからの10年もまた、たくさんの何か、を出来るように頑張っていきたいと思います。

ホロやミューリ共々今後ともよろしくお願いします!

★『狼と香辛料 Spring Log編』の次のお話は、10月10日発売の『電撃文庫MAGAZINE Vol.58』をチェック!